■業革心理学
目次
- 第1章 なぜ業革心理学なのか
- 第2章 目標定義フェーズの心理
- 第3章 現状認識フェーズの心理
- 第4章 問題分析フェーズの心理
- 第5章 施策検討フェーズの心理
- 第6章 成果報告フェーズの心理
- 第7章 おわりに
第1章 なぜ業革心理学なのか
業務改革の方法論が有効なのは、 その方法論が無ければ、人間の心理的傾向に流されて、 業務改革が失敗する可能性が高まるからです。
本論では、業務改革の各フェーズごとに、 マイナスに働きがちな人間心理を 心理学用語を添えながら紹介し、 どのような対策が有効であるかを 紹介します。
第2章 目標定義フェーズの心理
- 「後でも大丈夫」~問題の先送り (Procrastination)
するべき行動を遅らせることで事態が悪くなると予想される場合ですら、 合理的理由無く意図して遅らせる態度や振る舞い。
「事態はそれほど切迫していない」という環境の誤認や、 「後でも挽回できる」という自分の能力への過信によって、 実行時期を後延ばししてしまう。 周囲(競合環境)と自己(ケイパビリティ)を客観的にアセスメントし、 適切な時期に適切な水準に到達できるように、目標を定義する必要がある。 それには、課題を「ツリー構造」で整理し、「重みづけ」により 優先度を定量化して絞り込み、 世代ごとに達成目標と期限を決めると良い。
- 「誰かがやってくれるさ」~社会的手抜き(Social Loafing)
集団で共同作業を行う時に一人当たりの課題遂行量が 人数の増加に伴って低下する現象。
各組織・各役割のミッションを明文化・定量化し、 個々人の責任が明らかになるところまで細分化すると良い。 また、 組織横断的なend-to-end のプロセスについて 顧客志向でのパフォーマンス改善に 責任を持つプロセスオーナーを設置することで、 個々人の役割定義が硬直化するのを防ぐことができる。
- 「どうせムダだよ」~学習性無力感(Learned helplessness)
長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれると、 その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという現象。
小集団による現場革新活動への参加を促し、 自ら状況を変えられるという体験を常態化させると良い。
第3章 現状認識フェーズの心理
- 「確かそうだった」~虚偽記憶 (False memory)
実際には起っていない筈の出来事に関する記憶。
勘・経験・度胸に頼らず、データ志向で 事実をベースに現状把握すると良い。
- 「まだ大丈夫」~認知バイアス(Cognitive bias)
合理的な選択理論とは異なる認識・意思決定を行うこと。
事実データに基づくことは勿論、 データの表現方法についても、公平・客観的になるよう 心がけると良い。
第4章 問題分析フェーズの心理
- 「我が社としてはね」~自己中心性 (Egocentricity)
自分自身を物事の中心と定義して、世の中の物事を解釈すること。
顧客志向、さらには外部志向(Out side - In)で 考えるくせをつけると良い。
- 「あの人が言うなら」~ハロー効果(Halo effect)
評価対象が持つ顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる現象。
特性要因図・5M1Eなどのフレームワークを用いて、 問題原因を幅広く網羅的に洗い出すようにすると良い。 また、コントロール・インパクトマトリクスを用いて、 集中すべき問題原因を合理的に絞り込むと良い。
- 「あいつのせいだ」~根本的な帰属の誤り(Fundamental attribution error)
個人の行動を説明する際、気質的・個性的な側面を重視しすぎ、 状況的・環境的な側面を軽視しすぎる傾向。
プロセス志向で、人の問題でなく プロセスの問題であると考えると良い。 「プロセスを憎んで人を憎まず」の精神。
- 「あなたのことはお見通し」~非対称な洞察の錯覚(Illusion of asymmetric insight)
自分は相手のことをよく知っていて、 相手は自分のことをそれほど知らないと考えること。
顧客志向、プロセス志向、 データ志向をフル活用して、 公平・客観的・俯瞰的な視座から状況を分析すると良い。
第5章 施策検討フェーズの心理
- 「これだ、これしかない」~アンカリング(anchoring)
アンカーと呼ばれる先に与える情報が判断を歪めアンカーに近づく現象。
ゼロベース思考で、ブレーンストーミングなどの手法を用い、 幅広くアイディアを出すと共に、 ペイオフマトリクスを用いて、取り組む施策の優先順位を 合理的に決めると良い。
- 「やめるなんて勿体ない」~コンコルド効果 (Concorde fallacy)
ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが 損失につながるとわかっているにもかかわらず、 それまでの投資を惜しみ、投資がやめられない状態。 「埋没費用効果 (Sunk cost effect)」。
ビジネスモデル、ビジネスケースに基づいて、 客観的・合理的に施策を検討すると良い。 また、ECRSの原則をよく理解し、「E:やめる」ことが 事業においても業務においても最も効率・効果の高い 施策であることを関係者間で共有すると良い。
- 「この方法で必ず儲かる」~生存バイアス (Survivorship bias)
最終的に生き残った成功事例だけで評価・判断すること。 背後に少なからぬ脱落事例(途中で挫折した、 死んでしまった、話題にもなっていない、といった事例) があることが考慮から漏れている。
少ない事例から判断せず、 全体(分母)の中から成功事例(分子)の確率を考え、 その方策がどの程度有効なのかを客観的・定量的に 判断するよう心掛けると良い。
第6章 成果報告フェーズの心理
- 「どうだ凄いだろう」~自己過大評価 (Self-overestimation)
能力の低い人は、自分のレベルも他人のスキルも正しく評価できず、 自分を過大評価する。 「ダニング=クルーガー効果(Dunning–Kruger effect)」、 「優越の錯覚(Illusory superiority)」
第三者に客観的な評価を求めると良い。 また、不足が次の世代の成長機会であることを認める 文化を醸成すると良い。
- 「私ごとき」~自己過少評価(Self-underestimation)
能力があることを示す外的な証拠があるにもかかわらず、 自分の成功を幸運・偶然のせいと考えたり、 実際より能力があると他人を信じ込ませる詐欺と考えたりする傾向。
「インポスター症候群(Impostor syndrome)」とは、 成功は運や他人の支援のおかげなのに自分の実績と見せかけているのでは、 失敗はひとえに自分の能力不足のせいなのではと考える傾向で、 男性よりも女性が陥りやすいと言われている。第三者に客観的な評価を求めると良い。 また、チームで成果を喜び合い、 のちの世代に成果を伝えることを重視する 文化を醸成すると良い。
第7章 おわりに
様々な業務改革の方法論やツールは、 人間心理の傾向を知ることで、 その必然性に深く腹落ちし、より実践的に活用できるようになります。 それにより、業務改革が失敗するリスクを下げることができます。
ホームに戻る
「わかった」
「なるほど」
「やってみよう」
のために
Copyright ©2019 Current Color Co. Ltd. All rights reserved.